Go to the page content
ヒント 肥満と健康リスク

肥満の予防と早期介入を阻む障壁の克服

(本記事は、ノボ ノルディスク グローバルが作成した記事の翻訳版です。)

※本記事は、海外での「肥満」の考えを述べています。日本における肥満および肥満症の定義は異なります。日本と海外の肥満の考え方の違いについては、「 肥満』と『肥満症』の違いとは」をご覧ください。

肥満の予防と早期介入を阻む障壁の克服

画像はモデルです。

体重を長期的に管理するための選択肢は進化を続けているにもかかわらず、2035年までに世界人口の51%が肥満状態に達すると予測されています。この深刻な課題に効果的に対処するには、持続可能な体重管理戦略と、肥満に対する予防・早期介入の取り組みが連携して機能することが不可欠です。しかしながら、予防と早期介入の実現を妨げるさまざまな障壁が存在しています。本稿では、肥満における「予防」と「早期介入」の違いを明確にし、それぞれの取り組みを阻む特有の要因を整理します。そして何よりも重要な点として、これらの障壁を乗り越え、肥満を取り巻く状況を根本から変革するための方策について考察します。

予防と早期介入の違いとは?

肥満には、心疾患や2型糖尿病、ある種の癌をはじめとする数多くの疾患や健康上の問題を生じるリスクの増加が伴います。

予防の目的とは、肥満および肥満に関連する健康上のリスクの発生を未然に防ぐことにあります。肥満予防戦略は、肥満となる前の段階で導入することにより、特に効果を発揮します。一般的に、肥満とともに生きる人々には、肥満に関連する健康上の合併症を発症するリスクが高まる傾向にあります。そのため、この段階で対策を講じることが重要です。

一方、早期介入の目的とは、すでに肥満とともに生きている人々に対して、肥満がもたらす長期的な健康への影響を抑えることにあります。早期介入戦略は、まだ肥満に伴う合併症が表れていない段階で導入することで、より大きな効果が期待できます。肥満に関連する合併症は、肥満の持続とともに進行・重症化するため、この段階での介入が重要となります。

ここで、肥満と心臓の健康との関係を例に、予防戦略と早期介入戦略の違いを見てみましょう。

まだ肥満ではなく、健康上の合併症も発症していない人々に対しては、予防戦略を導入することで、高血圧などの心疾患リスク因子の発症リスクを抑える効果が期待できます。

一方、すでに心疾患リスクが高まっている人に対しては、早期介入戦略を導入することで、心臓発作や脳卒中といった、肥満が心臓に及ぼす長期的な影響を軽減することができます。

肥満の予防と早期介入を妨げる障壁とその要因とは?

肥満の予防を妨げる障壁は、個人レベルと医療レベル、政府レベルにそれぞれ存在しています。その因子はレベルごとに異なるものの、教育とコスト、環境という主な3つのテーマに概ね分類することができます。

肥満の予防と早期介入を妨げる障壁とその要因とは?

また、肥満の予防を妨げる大きな障壁として、予防の有効性について研究する臨床試験が不足していることもあげられます。そのため、効果的な予防戦略を構築することがさらに難しくなっています。

早期介入を妨げる主な障壁のひとつは、客観的な評価を行わない限り、肥満を認識することが意外なほど難しいという点です。この課題をさらに複雑にしているのが、現在、多くの国において国民の平均BMIがすでに「肥満」の範囲に達しているという現実です。そのため、医療従事者や一般市民が、早期介入の必要性に気づいたときには、すでに手遅れになっているケースも少なくありません。このような状況は、肥満の診断においてBMIだけに依存するのではなく、腹囲身長比や腹囲腰囲比といった他の評価基準を理解し、活用することの重要性を明確に示しています。

肥満の予防と早期介入を妨げる障壁を克服する方法とは?

肥満は、個人レベルと集団レベルの両方で予防が可能です。肥満率の上昇が続いていることを踏まえると、個人に焦点を当てたアプローチよりも、集団全体を対象とした予防戦略の方が、より大きな効果を発揮する可能性があります。
 

肥満の予防と早期介入を妨げる障壁とその要因とは?


ただし、個人ベースで肥満を予防する個人化戦略も重要です。肥満は、多くの要因が複雑に絡み合って発症する疾患であり、その要因も人によって異なります。栄養不足や運動不足が肥満の主な原因として広く知られていますが、実際にはあまり認識されていない影響因子も数多く存在します。たとえば、睡眠不足は食欲の増進や過食を引き起こす可能性があり、抑鬱症は身体活動の低下を招く場合があります。よって、患者さん一人ひとりの状況やニーズを把握している医療従事者と連携し、患者さんにとって最も効果を発揮する体重管理方法を見いだすことが重要となります。

早期介入を実現するためには、肥満を早期に発見し、その進行を遅らせるためにできるだけ早く管理する必要があります。そのためには、定期的にスクリーニングを実施するとともに、BMIの他にも、腹囲身長比や腹囲腰囲比などの肥満の評価基準を使用するのが効果的です。また、医療従事者が定期的に評価することにより、体重増の原因となるパターンや要因を早い段階で特定することもできます。

肥満の予防と早期介入は、世界的に深刻化するこの問題の負担を軽減するための重要なステップです。しかし、あらゆるレベルにおいてさまざまな障壁が存在しており、現段階ではこれらの取り組みが十分に活用されているとは言えません。予防と早期介入の違いを理解し、それぞれに適した戦略を策定することにで、より早期の段階から、より効果的な対応が可能になります。そして、予防と早期発見、長期的な体重管理戦略を組み合わせて実施することが、世界全体で増大する肥満の負担を軽減するための最も効果的なアプローチとなりうるのです。

参考資料
  • Economic impact of overweight and obesity to surpass $4 trillion by 2035 _ World Obesity Federation. Available at: https://www.worldobesity.org/news/economic-impact-of-overweight-and-obesity-to-surpass-4-trillion-by-2035#:~:text=The%20majority%20of%20the%20global,2035%20(from%202020%20levels).
  • Kuk JL, Wicklum SC, Twells LK. Canadian Adult Obesity Clinical Practice Guidelines: Prevention and Harm Reduction of Obesity (Clinical Prevention). Available from: https://obesitycanada.ca/guidelines/prevention.
  • Rubino F, et al. Definition and diagnostic criteria of clinical obesity. Lancet Diabetes Endocrinol. 2025 Jan 9:S2213-8587(24)00316-4. doi: 10.1016/S2213-8587(24)00316-4. Epub ahead of print. PMID: 39824205.
  • Obesity and overweight (no date) World Health Organization. Available at: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/obesity-and-overweight (Accessed: 09 May 2025).
  • Powell-Wiley, T.M. et al. (2021) ‘Obesity and cardiovascular disease: A scientific statement from the American Heart Association’, Circulation, 143(21). doi:10.1161/cir.0000000000000973.
  • Piepoli MF, Hoes A, Agewall S, et al. 2016 European guidelines on cardiovascular disease prevention in clinical practice. Eur Heart J. 2016;37:2315–81.
  • Mozaffarian, D. et al. (2018) ‘Role of government policy in nutrition—barriers to and opportunities for healthier eating’, BMJ [Preprint]. doi:10.1136/bmj.k2426.
  • Kim, T.N. (2020) ‘Barriers to obesity management: Patient and physician factors’, Journal of Obesity & Metabolic Syndrome, 29(4), pp. 244–247. doi:10.7570/jomes20124.
  • Schalkwijk, A.A. et al. (2017) ‘The impact of greenspace and condition of the neighbourhood on child overweight’, European Journal of Public Health, 28(1), pp. 88–94. doi:10.1093/eurpub/ckx037.
  • Yates EA, MacPherson AK, Kuk JL. Secular trends in the diagnosis and treatment of obesity among US adults in the primary care setting. Obesity. 2012;20(9):1909-1914. doi:10.1038/oby.2011.271
  • Piqueras, P. et al. (2021) ‘Anthropometric indicators as a tool for diagnosis of obesity and other health risk factors: A literature review’, Frontiers in Psychology, 12. doi:10.3389/fpsyg.2021.631179.
  • Obesity strategies: What can be done (no date) Centers for Disease Control and Prevention. Available at: https://www.cdc.gov/obesity/php/about/obesity-strategies-what-can-be-done.html (Accessed: 09 May 2025).
  • Prescription medications to treat overweight & obesity - NIDDK (no date) National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases. Available at: https://www.niddk.nih.gov/health-information/weight-management/prescription-medications-treat-overweight-obesity (Accessed: 09 May 2025).
  • Murphy, J.M. et al. (2009) ‘Obesity and weight gain in relation to depression: Findings from the Stirling County Study’, International Journal of Obesity, 33(3), pp. 335–341. doi:10.1038/ijo.2008.273.
  • Markwald, R.R. et al. (2013) ‘Impact of insufficient sleep on total daily energy expenditure, food intake, and weight gain’, Proceedings of the National Academy of Sciences, 110(14), pp. 5695–5700. doi:10.1073/pnas.1216951110.
  • Qi, Q.Y.D. et al. (2024) ‘Obesity medications: A narrative review of current and emerging agents’, Osteoarthritis and Cartilage Open, 6(2), p. 100472. doi:10.1016/j.ocarto.2024.100472. 

関連記事

PromoMats ID: JP25OB00130